なぜANAホテルは「桜を見る会」問題で最高権力に忖度しないのか

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ANAホテルの「回答」に賞賛
しかし企業としては得なのか?
「桜を見る会」前日の夕食会問題をめぐって、ANAインターコンチネンタルホテル東京が首相答弁と食い違う説明をしたことが、話題になっています。
 同ホテルにおいて、安倍首相関連の後援会が主催した夕食会の記載が政治資金収支報告書にない理由について、首相は参加者から会費を事務所の職員が集金し、その場でホテル側に渡したので収支は発生しておらず、記載の義務はないと説明。
 また、ホテル側が参加者へ宛名のない領収書を発行し、ホテル側からの明細書の提示もなかったと答弁しました。
 しかしホテル側は「代金を参加者個人から会費形式で受け取ることはない」「宛名のない領収書を発行することはない」「会合の主催者に対して見積書や請求明細書を発行しないこともない」と、真っ当な説明で首相の答弁を否定しました。
 政治に忖度しないANAホテルの態度には巷の賞賛が集まっていますが、ここでシンプルな疑問がわいてきます。こうした対応は企業として得なのか、それとも損なのでしょうか。
 ANAホテルの現経営陣の立場で考えれば、この行動は明らかに損です。実際、自民党幹部がメディアに「もうANAホテルは使えない」と発言したことが報道されています。一流ホテルの大口顧客である自民党の代議士を励ます会や、行政の息のかかった各種団体のイベントは、ほとぼりが冷めるまで「忖度」でANAホテルの利用を控えるでしょうから、ホテルの営業部門は大変だと思います。
損な行動をとった理由は
「外資系」だから?
 では、なぜ損なことをするのでしょうか。理由は、ホテルの正式名称を見ればわかります。ANAインターコンチネンタルホテル東京というその名の通り、かつての全日空ホテルズは、現在ではインターコンチネンタルホテルズグループが74%の資本を持つイギリス系企業だからです。
 全く同じメカニズムで起きた、別のニュースを紹介しましょう。デルタ航空は2月6日にホノルルから名古屋に運行したデルタ611便の乗客2名に、新型コロナウイルスの陽性反応が出たことを公表しています。すでに乗客には連絡をとり、安全対策を講じているという話です。定期便の機内でウイルス感染者が出たことを、便名も含めて詳細に情報開示する。これは日本企業がなかなかやらない行動です。
 逆の事例を紹介します。「桜を見る会」に関連してはホテルニューオータニでも宴会をめぐる問題が起きていますが、明細書については「主催者の要請がなければ国会には出せない」と、暗に首相を守る立場をとっています。理由は、忖度したほうが自社の利益上、有利だからです。ホテル経営では宴会場需要は生命線です。政府の機嫌を損ねていいことなどありません。
嘘をつかないことのほうが
目先の利益よりもずっと大事
 それに対して、ANAホテルやデルタ航空といった欧米系の外資系企業の社員は、法律や社内ルールを守らないと、逆に処罰されてしまいます。
 私も外資系企業に勤めていたことや、多くの外資系企業を顧客にしていたことがあるのでわかりますが、外資系企業の社員にとって、グローバルなルールは現地の社会ルールよりも上位に位置します。グローバルブランドを守るほうが、目先の業績よりも重要だからです。
 具体的には、彼らがグローバルで共有する「嘘をつかない」という企業理念を堅持するほうが、グローバル業績の数%程度を占めるに過ぎない日本事業の業績が2~3年低迷する状況を回避するよりも、はるかに重要だと考えるのです。
 同様の判断で、今世紀に入り最もインパクトが大きかった事例が、グーグルの中国からの撤退でしょう。同社は中国政府による検閲を拒否するために、中国という巨大なビジネスチャンスを棒に振りました。それでも政府の検閲に協力しないという理念を優先するほうが、グローバルで見れば長期的な信頼につながると、彼らのような外資系企業は考えるわけです。
 ただ、ワリを食うのは現地の幹部です。ANAホテルでいえば、グローバルなルールに従うことで一国の首相に恥をかかせざるを得ない。そのせいで業績が下がれば、自分の責任になる。まさに板挟みです。日本企業のサラリーマンよりも外資系企業のサラリーマンのほうが、実は悲哀は大きいのです。
 では、忖度によって日本企業は得をしているのかというと、必ずしもそうとはいえません。日本企業の多くが長期の信頼よりも短期の嘘を選ぶメカニズムを持つことに、消費者は何となく気づいているからです。
「本当は何か体に悪いものが入っているだろうな」と思いながら食品を口にし、「本当は設計ミスがあるんじゃないか」と勘繰りながら商品を購入する。ないしは「本当は騙されているんじゃないか」と不安なので金融商品は買わない――。よく聞く話です。
「無能」を理由にして逃げる
日本組織のガラパゴスルール
 この現象の一番根っこの部分にあるのは、日本企業のガラパゴスルールとして、何かを隠蔽する際に「無能を理由にする」というやり方が、日本だけで許されていることだと思います。
 たとえば、有能な社員がコロナウイルスの感染者の情報を集めようとすれば、あらゆる関係者に聞き取りをしながら、かなりの情報を集めることができます。一方で、無能な社員であれば「個人情報の壁があって情報が入手できません」「厚生労働省に問い合わせたのですが、関係者が多忙でつかまりません」などと、いくらでも情報が集まらない理由をつくることができます。
 外資系企業だと無能な社員は切り捨てられるが、日本企業では無能に振る舞っても切られない。場合によっては、後で「ご褒美」の昇進が待っていることすらあります。
 日本国内の政治問題も、コロナウイルス騒動も、海外メディアのニュースを読むほうが、客観的な情報を手に入れられるようになってきました。メディアも含め、社員が権力者に忖度しないように振る舞わざるを得ない外資系企業という存在は、2020年代の日本社会や日本経済の良心として参考にできるのではないか――。そんなことを感じさせられる一件でした。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
【訂正】記事初出時より以下のように修正しました。

・2ページ目4段落目:「またJR東海では、首都圏のコロナウイルスの感染者が2月10日と2月15日にそれぞれ新幹線で名古屋方面に向かったことが判明していますが、座席や便名どころか時間帯すら公表していません。」→記述を削除。
・2ページ目5段落目:「ホテル経営では宴会場需要は生命線ですし、JRにとってもリニア新幹線建設が最重要課題です。」→「ホテル経営では宴会場需要は生命線です。」へ変更。
(2020年2月21日 16:10 ダイヤモンド編集部)より

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