香港「報道の自由」危機に 国安法、広がる逮捕対象

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10日、警察に連行される香港紙創業者の黎智英氏(中)=AP

【香港=木原雄士】香港政府が民主派への締め付けを一段と強めている。香港警察は10日、民主派寄りの大手紙・蘋果日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏を香港国家安全維持法違反の疑いで逮捕し、同紙の編集フロアを一斉捜索した。一国二制度のもとで香港に保障されてきた「報道の自由」は危機にさらされている。

「多くの警察官が報道機関を捜索したのは衝撃的で恐怖を感じる。報道の自由を踏みにじり、記者に精神的な圧力を与える」。香港記者協会の楊健興主席は10日、蘋果日報を発行する壱伝媒(ネクスト・デジタル)本社の強制捜査を批判した。

約200人の警察官が捜査令状に基づいて5時間近く捜索し、25箱分の資料を押収した。蘋果日報は自社の捜索をインターネットで生中継し、記者席に立ち入る警察官の姿を映し出した。同社の労働組合は「警察の行動は情報源の秘匿というメディアの原則を損ない、報道の自由を侵害する」との声明を出した。

蘋果日報は香港の主要紙の中ではほぼ唯一、民主派を支持する立場を鮮明にする。黎氏の逮捕は同紙の取材活動や反中的な論調をけん制する狙いがあると受け止められている。

SNS(交流サイト)では上場する壱伝媒の株式を買って応援しようという呼びかけが広がり、10日の香港株式市場では同社の株価が前週末比2.8倍に急騰した。

香港は一国二制度のもとで報道の自由が保障され、中国本土のようなネットの検閲もない。ニューヨーク・タイムズ(NYT)やウォール・ストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズなど主要な欧米メディアは香港にアジアの拠点を置いてきた。

ただ、香港国家安全法の施行で報道機関を取り巻く環境は変わりつつある。NYTは同法施行後、香港にいる職員の約3分の1をソウルに移すと発表した。香港外国記者会は複数の外国人記者のビザ更新が遅れていると明らかにしている。

香港政府は香港国家安全法の取り締まりの対象となるのは「ごく一部」と説明してきたが、逮捕者の範囲は広がる一方だ。施行直後には抗議活動の現場で「香港独立」などと書かれた旗を持っていた男女10人が逮捕された。7月末には香港独立を主張する団体の元代表ら男女4人が内偵捜査に基づいて逮捕された。

民主活動家の羅冠聡(ネイサン・ロー)氏ら英国や米国に滞在する6人が指名手配されたとの報道もある。羅氏や黎氏は香港独立を掲げる過激派とは一線を画しているが、米欧の政治家と会談して制裁を求めるなど、外国とのつながりが問題視された可能性がある。

米政府は7日、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官ら中国・香港政府の高官に制裁を科すと発表し、中国政府は10日に対抗措置を表明した。香港を挟んだ米中対立が深まり、香港で活動するメディアや企業にまで影響が及びつつある。

黎智英氏は香港民主化運動の熱心な支持者として知られる。12歳のときに広東省から密航して香港に逃れ、カジュアル衣料専門店「ジョルダーノ」を創業して大成功した。

転機になったのは1989年の天安門事件だ。民主化運動を支持するTシャツをつくるなど政治への関心を強め、メディア事業に参入した。2014年の雨傘運動や19年の逃亡犯条例改正案に反対する大規模デモも支援した。

中国の官製メディアは黎氏を民主派重鎮の李柱銘(マーティン・リー)氏らと並ぶ新たな「四人組」と位置づけて、激しく批判してきた。香港の主要企業が蘋果日報への広告出稿を見送るなどビジネスも厳しく、電子版の有料化などを進めている。
<日本経済新聞>より

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